民法1:私権・法律行為


○ 民法1:私権・法律行為



□私権の主体の種類
◇自然人:
  ・権利能力の始期…私権の享有は出生に始まる(3条)
           ※「出生」は胎児の身体が母体から全部露出した時点(全部露出説)
  ・胎児の権利能力
    ・原則:「出生」前なので権利能力なし
    ・例外:一定の場合に既に生まれたものとみなす
          →損害賠償請求権(721)、相続(886)、遺贈(965)
  ・権利能力の終期…自然人は死亡により私権の主体としての地位を失う
            ※死亡の証明が困難な場合は認定死亡(戸籍法89)
             同時死亡の推定あり(32条ノ2)
  ・失踪宣告…利害関係人は一定期間、不在者の生死が文明でないときは家庭裁判所の失踪宣告により
        不在者の死亡を擬制し、同人の住所を中心とする法律関係を整理することができる(30・31)
          ※普通失踪…失踪期間(7年)満了時
           危難失踪…危難の去ったときから
         ⇒失踪宣告により不在者は死亡したものとみなされる(31)
     ※失踪宣告の取消:
       …失踪宣告による死亡擬制の効果は、本人・利害関係者の請求により死亡擬制時に遡って消滅
          ※失踪宣告後その取消に善意でなされた行為は有効(32-1)


◇法人(公益法人):
  ・法人の種類 [根拠法]  [目的]  [実体]
    ・法人→ 公法人
         私法人 →公益法人→社団法人・財団法人(民法)
              営利法人→会社(商法)
  ・権利能力の始期:
     …法人(公益法人)は主務官庁の許可により成立し権利能力を取得(34)
      ※営利法人(会社)と異なり、公益法人(民法上の法人)は設立登記により成立するわけではない(45-2)
  ・権利能力の範囲:
     …公益法人は定款(社団法人)or寄付行為(財団法人)により
      定められた目的の範囲内で権利能力を有する(43)
        →法人(公益法人)は理事その他の代理人が職務を行うにつき
         他人に加えた損害を賠償する責任を負う
  ・権利能力の終期:
     …法人は一定の目的のもとに組織化された存在であり
      これを存続することのできない事情(解散事由)が発生すれば解散し(68)、清算により消滅する(73・83)


□権利義務を取得するための能力
 ◇意思能力
  ・各人が正常な意思に基づき自己の行為の結果を弁識するに足るだけの精神能力
    →明文の規定はないが、私的自治の原則によりこれを欠く行為は無効(判例)
      ※私的自治の原則…各人は自己の意思によって自己の法律関係を形成できるとの原則


 ◇行為能力
  ・自らの行為によって法律行為の効果を確定的に自己に帰属させる能力
    ※制限能力者…未成年者、被後見人、被補佐人、被補助人
            →行為能力を制限された者(制限能力者)の行った行為は一定の場合に取消可

   
 成年後見制度  ※従来の禁治産・準禁治産の制度は廃止
   →精神上の障害により判断能力が乏しい成年者の保護を念頭に置きながら
    自己決定の尊重と取引の安全をはかる制度


・法的後見制度:

種類 制度の内容
被後見人 日用品の購入を除き取消可(9)
被補佐人 13条1項に列挙された行為の他、家庭裁判所の定めた行為につき補佐人の不同意の行為は取消可(13)
被補助人 特定の行為のみ取消可(17-4)


・任意後見制度:
 →判断能力が不十分な状態になった場合に備えて後見事務を委託し、
  その事務について代理権を付与する委任契約(任意後見契約)を締結し、
  受任者の事務処理を家庭裁判所が選任した任意後見監督人により監督させる制度


□法律行為制度
 ◇法律行為の意義
   ・法律行為…意思表示を要素とする法律要件
      ※単独行為(遺言・相続放棄等)、契約(売買・賃貸借・委任・請負等)、合同行為(社団設立等)等
 ◇法律行為の成立
   ・一般的な成立要件:
     1)意思能力・行為能力を有する当事者が存在
     2)目的が存在
     3)意思表示が存在
       ※意思表示…内心的効果意思・表示意思・表示行為により成立   
              →意思表示のきっかけ・動機は原則、意思表示の成立要件でない
   ・特別な成立要件…個々の法律行為につき必要とされる要件
      →婚姻や養子縁組などの要式行為では一定の方式が要求され(739・799)
       質権設定契約等の要物契約では目的物の交付が要求される


 ※意思主義…表意者の利益を重視 / 表示主義…取引の安全を重視
   ⇒日本民法は両者の折衷主義を採用
  

 ◇法律要件と法律効果
   ・法律要件…権利義務変動の原因となる事実 ※法律要件の1つ
   ・法律効果…権利義務変動の結果


 ◇法律行為の解釈
   …法律行為の意味を確定する作業 / 任意規定(91)や慣習(92)を解釈の基準に


 ◇法律行為の効力
   ・法律行為の内容確定性…法律行為の内容が確定できないものは無効
   ・法律行為の実現可能性…法律行為の内容が実現不可能なものは無効
     ※当然に無効となるのは原始的不能であり、後発的不能
      債務不履行(415条)、危険負担(534〜536条)の問題になるにすぎない
   ・法律行為の適法性…法律行為の内容が強行法規・公序良俗に反する場合は無効
   ・意思表示の完全性…法律行為の成立要件である意思表示にカシ・意思のケッカンがある場合、
             当該法律行為が無効・取消すべき行為となる


  ※不完全な意思表示
   ・瑕疵ある意思表示…意思表示をなすにあたって違法な行為が行われ
             これにより動機付けされて意思表示してしまった場合
     ⇒民法の2ケースの規定:
      1)詐欺による意思表示(96)…騙されたため錯誤→これによる意思表示
      2)強迫による意思表示(96)…強迫(身体・名誉・財産等への侵害)により畏怖→このため意思表示
   ・意思の欠缺…表示行為に対応する内心的効果意思がない場合
     ⇒民法の3ケースの規定:
      1)心裡留保(93)
         …表示行為に対応する内心的効果意思がないことを表意者自身が知って行う意思表示
      2)通謀虚偽表示(94)
         …意思表示の相手方と通じた上で(通謀)、表示行為に対応する
          内心的効果意思がないことを表意者自身が知って行う意思表示
      3)錯誤による意思表示(95)
         …表示行為に対応する内心的効果意思がないことを表意者自身が知らないで行う意思表示
           ※動機の錯誤は原則として錯誤に当たらないが明示・黙示に
            動機が表示された場合、動機の錯誤にも95条を適用しうる


・意思表示の効力

不完全な意思表示 意思表示の種類 原則 例外
瑕疵ある意思表示 詐欺による 取消可 善意の第三者に対する取消主張不可
  強迫による 取消可  
意思の欠缺 心裡留保 有効 相手方が悪意有過失の場合は無効
  通謀虚偽表示 無効 善意の第三者に対する無効主張不可
  錯誤 無効 重過失の場合は無効主張不可

 ※無効…当初より効力が認められない
  取消…取消して初めて遡及的無効
  追認…法律行為のカシを後に補充して完全にすること
      →無効行為の追認(119)、取消うべき行為の追認(122〜)、
       無権代理行為の追認(113〜)
     
    
 ◇意思表示の効力発生要件:
   ・一般的な効力発生要件:
     1)意思表示が相手方に到達(97、例外…98条)
     2)相手方に意思表示の受領能力がある(98条の2)
   ・特別の効力発生要件…条件・期限の到来(127〜)