憲法5:統治機構(国会・内閣)

○ 憲法5:統治機構(国会・内閣)




□国会の地位と構成
  1)国民代表機関【43条】
     →国民より公選された議員によって組織
  2)国権の最高機関【41条】
     →国会につけられた政治的修飾詞(政治的美称説)
  3)唯一の立法機関【41条】
     ・国会が立法権を独占する(国会中心立法の原則)
     ・立法において国会だけの議決で法律が成立(国会単独立法の原則)
       ※立法…およそ一般的抽象的法規範の定立一切


 ◇二院制
   ・衆議院参議院の二つの合議体【42条】    
   ・両議員とも全国民を代表する選挙された議員で組織【43条】


  衆議院の優越
    ・衆議院はその任期が短く、解散制度があり、より強力な民主的コントロールが可能であるから
    ・両院の意思が合致せず国政への渋滞が続くと深刻な問題を惹起する懸念から
      →具体例:
        ・予算先議権【60条1項】  ・内閣不信任決議【69条】
        ・法律案の議決【59条】…衆議院の出席議員の2/3以上の再可決
           ・参議院で異なる議決の場合
           ・参議院が60日以内に議決をしない場合 ※国会休会中を除き
        ・予算の議決【60条2項】…衆議院の議決が国会の議決に
           ・参議院で異なる議決+両院協議会でも不一致
           ・参議院が30日以内に議決をしない場合 ※国会休会中を除き
        ・条約の承認 【61条】…祝儀威の議決が国会の議決に
           ・参議院で異なる議決+両院協議会でも不一致
           ・参議院が30日以内に議決をしない場合 ※国会休会中を除き
        ・内閣総理大臣の指名【67条】…衆議院の議決が国会の議決に
           ・参議院で異なる議決+両院協議会でも不一致
           ・参議院が10日以内に議決をしない場合 ※国会休会中を除き


□国会の活動
 ◇会期と原則:
   ・会期…国会が活動能力を持つ期間(常会、臨時会、特別会)

  召集時期 会期 主要議案
常会 毎年1回、1月中 150日(延長1回可) 次年度予算審議
臨時会 内閣or議院の総議員の1/4以上の要求 両議院一致議決によって決定(延長2回可) 予算・外交・その他
特別会 衆議院解散後の総選挙日から30日以内 同上 内閣総理大臣の指名
参議院の緊急集会 衆議院解散中、緊急時内閣が集会要求 不定 国政上緊急に必要な事項


 ◇会期の制度:
   ・会期不継続の原則…会期中に議決されなかった案件は次の会期には継続しない【国会法68条】
   ・一時不再議の原則…いったん議決した議案は同じ会期において提出できない【国会法56条4項】
               ※明治憲法39条にこの規定が存在


 ◇国会の召集と閉会:
   ・召集…内閣の助言と承認によって天皇が召集【国事行為7条】
   ・休会…国会・各議院が議決によって会期中、一時的(10日以内)に活動を休止すること
        →両議院一致の議決を必要とする【国会法15条1項・4項】
   ・延長…両議院一致の議決で延長可能、一致しない場合、衆議院の議決による【国会法12条、13条】
   ・閉会…会期の終了または衆議院が解散されたとき閉会【54条2項】
       衆議院が解散された場合、参議院は同時に閉会【54条2項】


 ◇審議の原則:
   ・定足数…議事を開いて議決する際に必要とされる最小限度の出席者数
         →両議院では、総議員の3分の1【56条1項】
   ・議決要件…表決の原則で過半数の議決によらない場合【56条2項】


 国政調査権【62条】
   ・補助的権能説…国会がその権能を有効に行使するための補助的機能
   ・独立権能説…「国政全般の統制権」を有するとして



□国会議員
 不逮捕特権…政府権力の濫用を防止して議員が職責を全うできるように配慮【50条】
         =「会期中」逮捕されない
    ※特権が認められない場合:
     ・院外での現行犯罪【33条】…院内における現行犯罪は議院の自主的措置
     ・議院の許諾…正当な逮捕請求は許諾しなければならない
       ※閉会中の継続審議の委員会は認められない


 ◇免責特権…議員の自由な言論の保障として職務遂行に制約を受けさせないようにしたもの【51条】
         ※議員でない国務大臣は除外



□議院内閣制
  →国民の直接選挙によって構成される議会の信任に内閣という合議制機関の存在をより所とする制度
    ・議会と内閣とが一応分立
    ・議会の信任によって内閣は成立・存続するもので、議会に対して責任を負う


  ※議院内閣制の本質についての2つの説:
    ・責任本質説…政府と議会とが一応分離していることで政府が議会の信任に依存しているという論拠
    ・均衡本質説…憲法69条の内閣が議会に対して自由な解散権があることによって権力均衡の面を重視


 日本国憲法の定める議院内閣制:
   ・内閣総理大臣の指名【67条】
     …内閣の首長は国会議員の中から国会の議決で指名
   ・国務大臣内閣総理大臣によって任免されるが、その過半数は国会議員の中から選出【68条1項】
      ※ただし内閣官房副長官総理府総務副長官を議員は兼ねることが可能
   ・衆議院で不信任の決議案を可決or信任の決議案を否決したとき
      →内閣は10日以内に衆議院が解散されない限り総辞職【69条】
   ・内閣は行政権の行使に関して国会に対して連帯責任を負う【66条3項】
   ・内閣総理大臣国務大臣の議院出席の権利と義務【63条】


 衆議院の解散:
   ・解散権の実質的主体は誰にあるのか
     ・7条説…衆議院の解散は天皇の国事行為
           →が、4条1項では天皇は国政に関する権能を有しない
             =実質的に決定するのは内閣
     ・69条説…衆議院内閣不信任決議を行い、内閣が10日以内に総辞職をしなかった場合
   ・解散の日から40日以内に衆選
      →衆選から30日以内に国会召集
         ⇒内閣総辞職



□内閣の組織と権能
 ◇内閣の組織
   ・首長である内閣総理大臣およびその他の国務大臣で組織【66条1項】
   ・各大臣は合議体として内閣の構成員、それと共に主任の大臣として行政事務を分担管理【内閣法3条1項】
   ・行政事務を分担管理しない無任所大臣も認められている【内閣法3条2項】
   ・国務大臣の数は原則14人以内、特別に必要な場合は17人以内【内閣法2条2項】
     ※内閣総理大臣および国務大臣文民でなければならない【66条2項】


 ◇内閣の権能:
   ・内閣の職務…行政権は内閣に属す【65条】
           →一般行政事務と他の7つの事務
      ・1号→法律を誠実に執行すること
      ・2号・3号→外交関係の処理・条約の締結等の重要な外交事務
      ・4号→行政権の職務を行う公務員の任免・服務・懲戒等々の人事行政事務
      ・5号→予算の作成・提出
      ・6号→政令の制定
          ※政令
           ・執行命令:憲法および法律を実施するために内閣が制定
           ・委任命令:法律の委任に基づく命令
      ・7号→恩赦の決定
   ・閣議内閣総理大臣が主宰【内閣法4条】
        ※慣例として全員一致だが、この背景には内閣の一体性の確保がねらい


 ◇内閣の職務と憲法が定める特別な事務:
   ※憲法73条以外の一般行政事務→内閣法7条および8条に規定
    →憲法が規定する特別な事務:
     ◆天皇の国事行為への助言と承認【3条、7条】
     ◆国会に対する権限
       ・臨時会召集の決定【53条前段】
         →※召集するのは天皇【7条2号】
       ・衆議院の解散の決定【7条3号、69条】
     ◆裁判所との関係
       ・最高裁判所長官の指名権【6条2項】 →※任命権は天皇
       ・最高裁判所長官以外の最高裁判所裁判官および下級裁判所の裁判官の任命権【79条1項、80条1項】
     ◆参議院の緊急集会【54条2項】
       →国会の閉会中に国会の議決を必要とする重大事件が発生したとき
         (会期なし・必要案件が全て議決されるまで・衆院の同意必要)



□財政国会中心主義
  →国の財政に関する活動は全て国会の議決に基づいて行わなければならない【83条】
    ※国家の財政の運営、国民の利害に影響
      ⇒国民の代表機関である国会の議決に基づいて行使(財政民主主義)


 ◇租税法律主義:
    →租税の賦課徴収が必ず法律によることを要求するもの
      ⇒国または地方公共団体がその経費に充てる目的で強制的に賦課徴収する金銭

    ※2つの例外:
      ・地方税…課税客体、課税標準、税率等々は条例に委ねられている【地方税法3条1項】
      ・関税の賦課徴収…条例や政令で関税を決定したものは例外として認められる


 ◇国費の支出・国の債務負担:
    ・皇室関係…皇室の財政に関して国会中心財政主義が及ぶ【8条、88条】
    ・公金支出の制限…憲法の趣旨から宗教を国家から完全に分離する【20条】
        ※宗教団体に対しては公の財産を支出・利用の制限をすることによって
         国と宗教の分離原則を貫いている【89条前段】



□予算(一会計年度における国の財政行為の準則)
 1)予算の作成:
   ・作成権(発案権)は内閣のみ【86条】 →※予算の特殊性(専門性)から
   ・衆議院に最初に提出【60条1項】 →※予算審議に衆議院を尊重(衆議院の優越 憲法60条2項)  


 2)予算の法的性格:
   ・予算行政説…予算=国会が内閣に対して一年間の行政計画を承認するもの
   ・予算法律説…予算=法律の形式で議決すべきもの(法律の一種)
   ・予算法形式説…予算=法律ではないが予算という名称を持つ国法の一形式
      ※これが通説
        ・【73条5号】…予算の作成・提出は内閣の職務
        ・【86条】…予算の作成・議決について規定
        ・【60条】…衆議院の予算先議・衆議院の優越性・予算の再議決を否認


 3)予算の修正:
   ・明治憲法67条と異なり、国会の予算審議権を制限していない(国会中心財政主義)
   ・国会法57条但書、同57条3号、財政法19条によって増額修正権が認められている
   ⇒修正権に制限はない(通説)
      ※が、増額修正であまりにも大幅な修正はできないと捉えられている


 4)予備費と暫定予算:
    →予見しがたい不足が生じた場合に備え、国会の議決を得て予備費を設定
       ※予算の費目の金額を超過して支出する場合/予算費目のない支出
         →本来、追加予算の国会提出・議決を経るべきだが緊急性・軽微な修正の煩わしさから
   ・予備費…予算の中に含まれ、支出の目的を特定しない
   ・暫定予算…予算が新年度開始前に成立しないことが明らかに予見されるとき
          →正規の予算が成立したとき、失効


 5)決算:
    ・一会計年度における、現実の収入・支出を計数で表示したもの
    ・会計検査院が国の歳入・歳出が適正に行われたか検査【90条1項前段】
       →内閣は次年度、この会計検査院の検査報告とともに決算を提出【90条1項】
          ⇒国会はこれを審査し内閣の政治責任を明らかにする